焼き付いている景色③(たきで)

 

その日、僕達は近くの村の人気の無い公園の貸しグラウンドでバスケをしていた。

季節は夏の終わりで、少し暑さも和らいできた頃だった。

 

貸し時間を終え、夕方になったので自転車にまたがり帰ることにしたのだが、帰り道T字路をどちらから来たか分からなくなった。

…のだけれど、僕達はノリで道を選んでペダルを漕いだ。

 

あの頃の僕達には間違っていようが、冒険なら大歓迎という気概があった。

案の定、道が違うことには気づいたのだが、

もはや帰り道なんてどうでもよかった。

こっちの方角に進めばいつか家の方につくだろうという感覚に任せて、

知らない道をどんどん進んでいった。

 

進んでいくと次第に坂道になり山を登り始めた。自転車を降り、自転車を押して、歩いて進むことになった。周囲には家が現れ始め気づけば知らない村の道を進んでいた。 

知らない人達、知らない子供達を横目にして、友達が

「ここどこの世界!?」

と言ったことをよく覚えている。

 

それでも僕達は進んでいった。

(もう帰る頃合だ、少しずつ日が落ちてきてる。このまま帰れないと少し困ったことになる。)

そう思いながら進んでいるとやがて上り坂の終わりが見えた。

 

そこまで登り、山の上に達した時、目の前にはまだ見たことのない広大な景色が広がっていた。知らない土地、知らない村と共にそれを包み込むように、少し紫が混じった夕焼け。その紫色がなんだか不穏な空気を醸し出していて、期待とともに少し不安な気持ちがくすぐられた。

(この先の村にこのまま降りたら家に戻れるか分からない。だけど、降りればまだ知らない場所にいける、知らないことと出会える。)

そんな胸の高鳴りを強く感じていた。

 

いつも通りなのは隣にいる仲間達だけで、

周囲は何もかも全く知らない場所。

そんな場所に自分達は冒険してこれたんだと思うと充足感があった。

 

僕の心に未だ焼き付いている景色の一つだ。

 

 

あの道も今じゃ車で行けばあっという間だし、歩いていた村も降りた先の村のことも今はよく知っている。

狭い世界なのに、広い世界を冒険して

成し遂げたような気分になれた。

それだけで僕達の毎日は楽しかった。